「デザイン思考(Design Thinking)を取り入れよう」 そう掲げて、オフィスの壁一面にカラフルな付箋(ポストイット)を貼り付けている企業が増えています。
しかし、その多くが「付箋を貼ること」自体が目的化し、単なる「お遊びのブレインストーミング」で終わってしまってはいないでしょうか?
デザイン思考の本質は、メソッドやツールではありません。 徹底的な「人間中心(Human Centered)」の視点に立ち、ユーザーの深層心理に「共感(Empathize)」し、まだ言葉になっていない課題を解決することです。
空調の効いた会議室で、データやペルソナシート(架空の顧客像)だけを見て、「ユーザーはこう考えているはずだ」と妄想しても、そこにはリアルな「痛み」や「喜び」の手触りがありません。 脳内だけで完結した共感は、浅いのです。
本当のデザイン思考を実践するには、PCを閉じ、オフィスを出て、五感を使って世界を観察しなければなりません。 ユーザーが置かれている状況(コンテキスト)を、肌で感じ取る「野生の感性」が必要です。
マグマリゾート。 予測不能な自然、不便な環境、圧倒的な非日常。 ここは、頭でっかちになった思考を強制的にリセットし、人間本来の感覚を取り戻すための、巨大な実験室です。
泥に触れ、火を熾し、風を感じながら思考する。 「手を動かして考える(Think with hands)」というデザイン思考の原点へ。
本記事では、形骸化したフレームワークに命を吹き込み、真のイノベーションを生み出すための、マグマリゾート流・デザイン思考ワークショップの全貌を、4000文字超の熱量で描き出します。

第1章:共感(Empathize)。データではなく「痛み」を憑依させる
ペルソナシートの嘘
「30代男性、都内在住、趣味はカフェ巡り」。 マーケティング部が作ったペルソナシートを見ながら議論しても、画期的なアイデアは生まれません。 なぜなら、それは平均化された記号に過ぎず、生身の人間の複雑な感情(コンプレックス、矛盾、渇望)が削ぎ落とされているからです。 イノベーションの種は、平均値ではなく、極端なユーザー(エクストリーム・ユーザー)の行動や、日常の些細な「違和感」の中に潜んでいます。 それを発見するには、観察者自身が安全地帯を出て、対象者の体験を追体験(ダイブ)する必要があります。
エクストリーム・エスノグラフィ
マグマリゾートでのワークショップは、「不便な森の中での生活」という極限環境における行動観察から始まります。
参加者はペアになり、片方が「ユーザー役」、もう片方が「観察者役」となります。 ユーザー役には、「薪を使ってお湯を沸かし、コーヒーを飲む」というミッションが与えられます。 しかし、道具は不十分で、足場も悪い。
観察者役は、手助けをしてはいけません。 ただひたすら、パートナーの行動と表情を観察します。
「あ、今、眉をひそめた。何が不快だったんだ?」 「薪を持つ手が震えている。重いのか、怖いのか?」 「なぜ、あそこで一度立ち止まったんだ?」
アンケート調査では出てこない、「無意識の行動」や「身体的な負荷」。 観察者は、自分が体験しているかのように、相手の痛みを自分に憑依させます。 「寒い」「痛い」「悔しい」。 このリアリティのある感情(情動)こそが、デザイン思考の出発点である「共感」の正体です。 会議室の椅子に座っていては絶対に見えない「人間の真実」を、森というフィールドが浮き彫りにします。

第2章:定義(Define)。ノイズを削ぎ落とし「真の問い」を立てる
「How」に飛びつく前に
「コーヒーを飲みやすくするにはどうすればいいか?」 多くの人は、すぐに解決策(How)を考え始めます。 「軽いカップを作ろう」「自動着火装置を作ろう」。 しかし、それは本当に解くべき課題(Issue)でしょうか? 先ほどの観察で、ユーザーが本当に求めていたのは「コーヒーを飲むこと」そのものだったでしょうか?
もしかしたら、「冷えた体を温めて安心したかった」のかもしれません。 あるいは、「苦労して火を起こすプロセス自体を楽しみたかった」のかもしれません。 表面的な事象に惑わされず、本質的な欲求を定義しなければ、的外れなプロダクトを作ることになります。
サイレント・リフレーミング
森の中で得た膨大な気づき(インサイト)を持ち寄り、課題の定義(リフレーミング)を行います。 ただし、ここではPCやホワイトボードは使いません。 地面に木の枝で図を描いたり、石を並べて構造化したりします。
デジタルツールを使うと、どうしても「綺麗にまとめる」ことに意識が向き、思考のノイズ(雑味)が消されてしまいます。 アナログな手法で、泥臭く思考を深める。
「彼が本当に欲しかったのは、コーヒーではなく『達成感』だったのではないか?」 「いや、『自然への畏怖』を感じたかったんだ」
問いを何度も書き換える。 「コーヒーカップをデザインする」のではなく、「達成感を最大化する儀式をデザインする」へ。 鳥の声しか聞こえない静寂の中で、思考を研ぎ澄ます。 余計な情報が入ってこない環境だからこそ、問題の核心(コア)に一点集中することができます。 「これだ!」という真の問いが見つかった時、解決策は向こうからやってきます。

第3章:アイデア(Ideate)。身体性を伴う「野生のブレスト」
会議室の天井が発想の限界
「自由にアイデアを出して」と言われても、白い壁と蛍光灯に囲まれた四角い部屋では、四角いアイデアしか出てきません。 脳は環境と相互作用しています。 閉塞感のある場所では思考も縮こまり、開放的な場所では思考も広がります。 また、ずっと座ったままでは脳への血流が滞り、クリエイティビティは低下します。 アイデア出しは、知的作業ではなく、身体的作業(スポーツ)です。
ウォーキング・ブレインストーミング
マグマリゾートでは、机の上でブレストはしません。 森の中を歩きながら、あるいは走りながらアイデアを出し合います。
自然界には、直線が存在しません。 木々の枝ぶり、雲の形、岩の凹凸。 この「フラクタル(複雑系)」の刺激が、脳の連想ネットワークを刺激します。
「あの木の根っこのように、複雑に絡み合うシステムはどうだ?」 「風で揺れる葉っぱのように、柔軟に形を変えるサービスは?」
自然界のメカニズムをヒントにする「バイオミミクリー(生物模倣)」的な発想も自然と生まれます。 そして、歩くリズムが脳波をα波(リラックス状態)へと導き、突飛なアイデアへの心理的ブロックを外します。
「そんなの無理だよ」という否定(キラーフレーズ)は、大自然の前では無意味です。 「やってみようぜ!」。 子供のように自由な発想が、森のあちこちで爆発します。 付箋の枚数ではなく、熱量の高さで勝負するブレストです。

第4章:試作(Prototype)。手を動かして考える「泥臭い工作」
パワーポイント禁止令
通常の会議では、アイデアが出るとすぐに「資料にまとめよう」となります。 しかし、言葉や図だけで説明されても、そのアイデアが良いかどうかは分かりません。 「百聞は一見に如かず」ならぬ、「百見は一試に如かず」。 デザイン思考の醍醐味は、未完成でもいいから形にして、触ってみること(ラピッド・プロトタイピング)です。 「失敗するために作る」。 このマインドセットが、日本企業は苦手です。
ネイチャー・ブリコラージュ
「そのアイデアを、今すぐ形にしてください。材料は森にあるものだけです」 100円ショップの材料すらありません。 あるのは、枝、蔓、葉、泥、石。
「えっ、これでアプリの画面を作るの?」 「サービスの体験をどう表現する?」
参加者は必死に手を動かします。 平らな石をスマホに見立て、泥でボタンを描く。 枝と葉っぱで、店舗の模型を作る。 人間が演じて、サービスの寸劇(スキット)をする。
「手を動かして考える(Think with hands)」ことの効用は絶大です。 作っている最中に、「あ、ここは使いにくいな」「こっちの方が面白いな」と、身体が修正点を教えてくれます。
「頭でっかちにならず、まずは形にする」。 不格好なプロトタイプでも、そこには作り手の魂が宿ります。 綺麗なCGよりも、泥だらけの模型の方が、圧倒的に議論を活性化させるのです。 「失敗しても、材料費はタダだ」。 この心理的安全性が、大胆な試作を加速させます。

第5章:テスト(Test)。焚き火の前での「感情フィードバック」
批判ではなく共感を
オフィスでのプレゼンは、どうしても「あら探し」の場になりがちです。 「コストはどうするんだ」「実現可能性は?」。 論理的なツッコミは必要ですが、アイデアの芽を摘んでしまうこともあります。 プロトタイプの段階で必要なのは、批判ではなく「感情のフィードバック」です。 「それを使って、ワクワクしたか?」「心が動いたか?」。 ユーザー体験(UX)の本質を問う場が必要です。
ボンファイア・デモデイ
夜、焚き火を囲んで、各チームのプロトタイプを発表します。 プレゼン資料はありません。 作った「モノ」と、演じる「コト(体験)」だけで伝えます。
薄暗い中、炎に照らされたプロトタイプは、どこか神々しくすら見えます。 オーディエンスは、論理的な審査員ではなく、一人のユーザーとして反応します。
「その機能、すごく温かみを感じるね」 「ここを触った時、ちょっと不安になったかも」
焚き火のリラックス効果(1/fゆらぎ)により、発言者は素直な感想を言いやすく、発表者もそれを受け入れやすくなります。 「否定された」ではなく、「もっと良くするためのギフトをもらった」。
そして、ここで得たフィードバックをもとに、その場ですぐにプロトタイプを修正する。 枝を折り、石を置き換える。 この圧倒的なスピード感。
「デザイン思考って、こんなにエキサイティングだったんだ」。 机上の空論ではなく、ライブ感のある共創(Co-creation)の場。 ここで磨かれたアイデアは、単なる思いつきではなく、人間感情に深く根ざした「愛されるプロダクト」の種となります。

まとめ:デザイン思考は、マインドセットである
デザイン思考は、おしゃれなデザイナーだけの専売特許ではありません。 ましてや、付箋を貼るだけの儀式でもありません。
それは、不確実な世界の中で、他者への深い愛(共感)を持ち、泥臭く手を動かしながら、正解のない問いに立ち向かう「生き方(マインドセット)」そのものです。
マグマリゾートでのワークショップは、メソッドを教える場ではありません。 あなたの眠っている感性を呼び覚まし、全身全霊で「人間」と向き合うための道場です。
「研修から帰ってきた社員たちが、自分たちでダンボールで試作を作り始めた」 「会議室ではなく、現場に行って観察するようになった」
そんな行動変容が、必ず起きます。
頭ではなく、身体で思考する。 野生の感性を実装したイノベーターたちを、ここから世に送り出しましょう。
皆様の挑戦を、マグマリゾートでお待ちしております。